数日前のこと、アルバイトの子が突然「わぁ」と言うので何かと思ったら、キッチンの入り口のあたりに大きなとんぼがとまっていた。エントランスの扉を開けて営業していたせいか、紛れ込んだのかもしれない。でも、こんな時期にとんぼなんているんだろうか…。しかも、15cmくらいのかなり大きなとんぼだ。
そのとんぼを見て、小さい頃の記憶がふと甦ってきた。
実家では、ちょうどお盆の時期くらいになると、家族が集まる居間に、とんぼがやってくることがよくあって、気付くと天井や、電灯のスイッチのヒモによくとまっていた。幼い僕が外へ追い出そうとすると、祖母は、「あのとんぼは死んだおじいちゃんだから、そのままにしておきなさい」と。当時の僕は、「ふーん、そんなものか…」と納得し、以来実家では、「お盆にやってくるとんぼは、おじいちゃん」ということになっていた。
そんなことを言っていた祖母も既に亡く、僕もいつしか幼い頃の記憶は忘れ、「とんぼは、とんぼ」という当たり前の認識でここまできたわけだけど、キッチンにやってきた大きなとんぼを見たとき、瞬間的に「あ、おじいちゃんが店にきた」と感じてしまったのだ。仕事中に何十年も前の感覚がよみがえってきて、ちょっと変な感覚に陥る。「うーん、普通より大きいから、これはおじいちゃん&おばあちゃんだろうか…」などと。
近くにあったタオルで風を送ると、そのとんぼは店内を荒らすことなく、スーっとエントランスから外へ飛んで行った。
客観的に見ると、「店内にとんぼが紛れ込んで、やがて出て行った」っていうだけのことなんだけど、僕にとってはなんだか不思議な数十秒の出来事でした。